備忘録 〜読書と映画と、時々推しと〜

NEWS・作家 加藤シゲアキくんのファンです

湊かなえさん著 「夜行観覧車」を読んで

高級住宅地に住む3家族

ひばりヶ丘という高級住宅地に住む高橋家で殺人事件が起きました。高橋家の母親の証言では母親が父親を殺害したということ。そして隣に住む遠藤家。癇癪持ちの彩花の気もちをなんとか逆撫でまいとひっそり暮らす、母真弓、そして家庭で起こるいざこざに巻き込まれまいと距離をとる父啓介。そのお迎えに住む、小島さと子は昔からひばりヶ丘に住む住民。謂わゆるセレブと言われる主婦。ひばりヶ丘を高級住宅地へとのしあげたと自負している。

殺人事件が起きた高橋家の子どもは、父親の前妻の子ども、長男で良幸と長女比奈子と中学3年の彩花と同級生の慎司。慎司は事件当日はコンビニにいた。そしてその後、姿をくらませたました。

もっぱら焦点は妬み・恨み

ミステリーと思いきや、内容は人間の妬み・恨みなど、ドロドロした感情からなる産物の結果を表現されています。事件の真相ではなく、この設定で沸き起こる、人間の心理的描写が非常に面白い作品です。

出てくる登場人物は、全員が全員自己中心的思考です。良幸の彼女的存在の明里すらも同様でした。少し極端な気もしますが、結局人間がトラブルを生じさせる時って、この自己中心性が根本にあるのだと非常に明確になります。どんな言葉をかけようが、それは自分が有利か不利かという価値基準で動いている。

一つ不快なことが生じると、その原因を探ろうとします。その要因が自己に向かう人は自分が潰れてしまいがちですが、夜行観覧車の人々はそれを他人や環境のせいにする人が多い。唯一していなかったのが、慎司だったような気がします。話は戻り、一つ自己都合な要因を見つけ出すと、焦点はその一点に絞られます。頭の中は、「あいつのせい」「隣の人のせい」と渦巻いていく。相談できない関係性というのは本当に怖いものだと思います。もしも、誰かに相談できていればもっと違う視点が得られたかもしれない。しかし、人は自分の体裁を守るために相談を回避しがちです。日本人は特にその傾向が強いらしいのですが。

生きていくために

湊かなえさんのお話は、生きていくための知恵が詰まっていると、よく感じます。ストーリーは面白く、どんどん人間のドロドロした関係を外観できる好奇心で読み進めていき、ある種の快感すら得られます。だけれど、ふとしたフレーズや心理描写を傍観してみると、胸がチクリと痛むような、そんな気づきが得られる作品が多いです。

普通の感覚を持った人が、おかしなところで無理して過ごしていると、だんだん足元が傾いているように思えてくるんだよ。

夜行観覧車湊かなえp351 双葉文庫